バド・パウエル「The Amazing Bud Powell vol.2」
最近あまり更新出来ていないですね。
バド・パウエルのひとつの魅力が、熱烈な早弾きであることは確かだが、もうひとつの魅力としては、そのバラードを引く際のリリカルなプレイにある。先日紹介したアルバムと比べると、続編と位置づけられるこのアルバムは、その静的なパウエルを楽しむことが出来る。
Bud Powell - Polka Dots and Moonbeams - YouTube
上の「Polka Dots And Moonbeams」なんかは、パウエルのバラードプレイの極致とも言える素晴らしい演奏である。
Bud Powell - Autumn in New York - YouTube
有名なスタンダード、ニューヨークの秋。しっとりとした演奏が身に染みる。
このアルバムに関しては、あまり説明が必要ないんじゃないかな。聞いてみれば良さが分かるような気がする。投げやりで申し訳ないですけど。
デューク・エリントン「Piano Reflections」
私は成瀬駅南口のタクシー乗り場に突っ立っていた。
夜8時。バスの本数が減っていき、タクシーの乗り入れが増えていく、その狭間の時間。乗り場には3人もの人が、私の前に待っていた。
バスの待ち時間が10分もあるからと、見限ってタクシー乗り場に行ったのは間違いだったかもしれない。
私は頭を軽くかいた。いつもの癖である。
私は、東京郊外の駅にしては賑わっている成瀬の街並みを眺めながら、先日受けたセミナーについて思いを巡らした。
思いを巡らした、といっても大した「思い出」でもなかった。セミナーの内容は、あまり詳細を記載すると不味いので言えないが、自己の仕事の内容を内省して、同じミスを繰り返さないというもので、まあありきたりなセミナーであった。セミナーの仔細より、講師の女性が沖縄系美人であったことの方がポイントが高かった。
というわけで(?)、今回は、そのセミナーの名前繋がりで、エリントン公爵様の「ピアノ・リフレクション」を紹介します。
デューク・エリントンは、御存知の通り(?)ビック・バンドジャズの大家。生涯残したアルバムは、500以上あると言われており、流石にそこまでは集められない。
その中で、デューク・エリントンが少人数のピアノ・トリオ構成で演奏しているものが若干数あり、数多あるエリントンアルバムの中でも人気があるのである。
【参考】今回のアルバムとはまた別のアルバム「マネージャングル」より、「Caravan」。
Duke Ellington - Caravan - YouTube
それぞれ好き勝手演奏しているという印象で、ともすれば暴力的とも取れるかもしれない。とんがっているって感じ。
今回のアルバムは、上記よりぶっ飛んではないものの、年季を重ねたエリントン氏の貫禄のある、そして滋味深い演奏が楽しめる。
Duke Ellington: Dancers in love - YouTube
「Dancers In Love」。スウィンギーという言葉がピッタリ。まあ元祖スウィングジャズの方ですから。
Duke Ellington: In a sentimental mood - YouTube
そして、「In A Sentimental Mood」。少ない音数で紡ぐ、滋味深い本家エリントンナンバー。この曲は他のミュージシャンのカバーが多いが、正解はこれ。
ところで、なぜこのアルバムとセミナーが繋がったのだろうか。Reflectionという単語はすなわち、内省を意味する。セミナーの題名にもリフレクションという文字が着いており、正にリフレクションを推しているセミナーなのであった。
ジャズ・メッセンジャーズ「The Jazz Messengers At The Cafe Bohemia」
4月に入り、桜が咲き、皆様どう・・・いかがでしたでしょうか?
私は出不精なので、お花見とかは縁がありませんでした。プロ野球が開幕したので、家で試合を見てるひびです。
今回は、前回お話したホレス・シルヴァーに因んだアルバムです。その名も、「カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ」。ライブ盤です。
ジャズのアルバムにとって、ライブ盤の持つ役割は大きく、演奏者のアドリブを最大限堪能出来るフォーマットであります。特に50年代のライブアルバムは、かなり熱気があり、聞いていてスカッとします。
然しながら、今回のアルバムは最近まで、あまり好きじゃなかったのです。何故なら、同時期にジャズ・メッセンジャーズで傑作ライブアルバム「バードランドの夜」がリリースされているからです。
【参考】バードランドの夜「Split Kick」
SPLIT KICK / A NIGHT AT BIRDLAND vol.1 - YouTube
早いテンポに息の合う演奏、夭折の天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの神憑りなアドリブ、そして何より熱気溢れるライブ感が堪らない。名演、名盤の誉高いアルバムで、ガイドブックにも必ず載っているアルバムではないでしょうか。
このアルバムを聞いてると、同時期のライブアルバム「カフェ・ボヘミア」がなんか見劣りしてしまうんですよね。このような現象は、ジャズに限らずあらゆるミュージック・シーンに見られるものかとは思います。
それで今回、オーディオを新調してから聞く訳ですが、中々どうして内容的にもいけるやん!っていう感じになってます。そりゃ「バードランドの夜」と直接比べると、そちらに軍配が上がりますが、「カフェ・ボヘミア」も質的に肉薄していると感じます。
The Jazz Messengers - The Theme - YouTube
「カフェ・ボヘミア vol.1」から「The Theme」です。バンドのテーマソングとして度々取り上げられていますが、ここでの演奏は速いテンポで進み、各人がアドリブを取り、模範的ハード・バップが展開されてます。
今回、このように心変わりしたのは、オーディオの新調で音が良くなったというのもありますが、他のアルバムをどんどん聞き込んでいるからというのもあるかもしれません。いくつものアルバムを聞き込むことで、音に慣れていき、耳が育つのです。
因みに、ジャズ評論家の原田氏は、ジャズをマスターするにあたり、最低300枚のアルバムを聞くことが必要とおっしゃつてましたが、私は所有するアルバム数こそ、300を優に超えていますが、聞き込んでいるアルバムというと果たして・・・というところがあります。まだまだ勉強が必要です。
ホレス・シルヴァー「Holace Silver And The Jazz Messengers」
胃腸炎のため、しばらく更新が途絶えていました。先週、木曜日に熱が出て、金曜日には39℃。
金、土の2日間は家でずっと寝込んでいました。
なぜ胃腸炎になったのかは、ハッキリしています。先々週、私は大阪に勤める友人に会いに、東京から遥々大阪まで行きました。目当ては観光とCD屋巡り。
父の探していたアルバムを取得して、CD屋の方は一定の成果は出せたのですが…
昼食に、梅田駅にある焼き鳥屋で、ハツだのレバーだの食べたのですが、恐らく肉が傷んでいたのでしょう、私と友人共々腹を痛めてしまいました。
それはさておき、大阪の街で感じたのは、みんな関西弁喋っておりますなーってことです。当たり前のことですが、大阪に行ってみると結構ナチュラルにあちこちで関西弁が話されているのに感動します。関西弁って物事を結構ストレートに表現することが多く、東京弁?よりもまぎらわしさは感じませんでした。
今回紹介するのは、ファンキー・ジャズを支えた名ピアニスト、ホレス・シルヴァーの名アルバムとなります。大阪イコールファンキーのイメージが、何故か頭にあります。
ジャケットがめっちゃいかす。競り?ピース?
真似したくなりますが、必ずジャケットより格好悪くなるという。
さっそく、曲を聞いてみてください。
HORACE SILVER, To Whom It My Concern - YouTube
職場でトラブルが起きた時に脳内に鳴り響く曲。テーマがわかりやすく、軍隊マーチのような曲調。
Horace Silver - The Preacher (1955) - YouTube
稀代の名曲「ザ・プリーチャー」は、最初レコード会社ブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンに批判され、収録しないように指示したが、シルヴァーが猛反発し、「ザ・プリーチャー」を入れないなら代わりの曲を作れと言い出し、結局ライオンが折れて販売された、というエピソードがある。それでスマッシュヒットを出したので、まあ面白い。
聞いてみると、明るい曲調の中に、ブルースの陰がチラついている。これぞ、正に黒人の生の風俗を表現している名曲。テーマは古きニューオーリンズ・スタイルにどこか似ているような感じ。
アート・ブレイキーのグループ、ジャズ・メッセンジャーズは、このアルバムから実質的に録音をスタートさせており、その後シルヴァーの離脱を経て、名盤「モーニン」をリリースするジャズの登竜門的グループへと発展していく。まさにそのスタートに相応しい出色のアルバムだ。
カーティス・フラー「Bone&Bari」
まず余談から入るが(?)、最近私の中でBOOKOFFの再評価運動が起こっている。
ジャズのCDが、案外安く販売されているのだ。例えば、某ディスクユニオンで1000円の値が付いたCDが、BOOKOFFでは750円で買えた。
その他にも、研磨機のある店では、CDの状態を確認してキズが着いていたら「研磨しますか?」と言ってくれる。これも嬉しいですね。試しにCDを研磨すると、綺麗にキズが無くなった。帰ってそのCDを聞いても音質に問題は無い。こいつぁすげぇや!
今回はそのBOOKOFFで購入した隠れた好盤カーティス・フラー「Bone&Bari」を紹介します。
カーティス・フラーは、ハード・バップ時代から活躍しているトロンボーン奏者で、ブルーノートにいくつかリーダー作を残している。その中で今作は、トロンボーンとバリトンサックスという低音管楽器をフィーチャーしたアルバム。
トロンボーンとバリトンサックスと聞くと、なんか暗いイメージが湧きそうになるんすけど、別にそんなことはなく、冒頭からファンキーなハード・バップを奏でてくれる。
Curtis Fuller - Algonquin - YouTube
一曲目の「アルゴンキン」は、後に出る大名盤「ブルース・エット」を彷彿とさせる、明るいナンバー。
CURTIS FULLER, Nita's Waltz (Fuller) - YouTube
興味深いのは、二曲目の「ニタのワルツ」。ワルツのメロディーに沿って、トロンボーンとバリトンサックスがユニゾンで演奏しており、中々美味。
しかし、このアルバムの聞きどころさんは、ソロバラードである!
CURTIS FULLER, Again (Cochran, Newman) - YouTube
五曲目の「アゲイン」は、一曲バリトンサックスのソロとなっていて、こちら心に染み渡る名演となっております。かの言いたい放題のジャズ評論家の寺島氏もこの演奏を推していたので、まあ名演であることは間違いないでしょう。
いい買い物をしました。
マイルス・デイヴィス「Relaxin' With The Miles Davis Quintet」
マイルス・デイヴィスに最初に出会ったのは、世紀の大名盤「カインド・オブ・ブルー」からだった。正直、つまらなかった。何も面白くない。盛り上がりにかける。陰気。そんな気がした。
それからしばらくはマイルスを避けていた。アレなら、もういいかなって、思ってた。
町田のBOOKOFFでたまたま「Relaxin'」を見かけたのは、「ブルー」から3ヶ月ほど後だろうか。
ジャケットを見て、ザ・ハイロウズの「Relaxin With The High-Lows」のパロディ元だなと気づき、試しに買ってみる。こういう時に買うCDは100パーセント当たりなのだ。
聞いてみるとビックリした。「ブルー」と全然ちゃうやん!何これ!ってなる。
その時は知らなかったのだが、「カインド・オブ・ブルー」はモード・ジャズという、当時では画期的なジャズをやっていた。コード進行による作曲ではなく、音階に基づいた作曲。対して、「Relaxin'」は、正道的なハード・バップだった。めくるめくコード進行によるメロディアスで劇的な音楽。そう、まるで正反対なのだ。
「Relaxin'」を聞いてから、ハード・バップという音楽が気に入り、いつしかそればっかり聞くようになった。モードに入るのはもっと先立った。
「Relaxin'」は、マイルス・デイヴィスのマラソン・セッションの4部作のうちのひとつ。他のアルバムの名前も、「Workin'」「Cookin'」「Steamin'」となる。そのままリラックスする、働く、料理する、煙草吸う、となり、人の1日を表現しているよう。
マイルス・デイヴィスが、プレスティッジから大手レコード会社コロンビアに移籍する際に、残っていたレコード契約の消化のために行われたのが、マラソンセッション。そう聞くと、クオリティ低いんちゃうと思われるが、全然そんなことないです。
The Miles Davis Quintet - You're my everything - YouTube
曲の頭に、マイルスの「そこちゃう、ブロックコードや」という訂正の声が入る。ピアノのレッド・ガーランドのブロック・コードから始まる。ガーランドはブロック・コードが上手い。そして入るのがミュートトランペットのマイルス。マイルスのミュートは1級品だった。途中でジョン・コルトレーンのサックスが場を引き締め、なおかつバラードを続ける。ベースはポール・チェンバース、ドラマーはフィリー・ジョー・ジョーンズ。ここでは、目立たないが、最高のリズムセクションだ。
この時代のマイルス・デイヴィスクインテットは、全時代で最強の黄金クインテットであったに違いない。50年代マイルスが一番好きな私はそう主張する。ハード・バップという演目の元に、一丸となって邁進する。マイルスの統制力の高さもさる事ながら、各プレイヤーの技量、個性が上手く出ている。ハード・バップの手本である。
If I Were A Bell - The Miles Davis Quintet - YouTube
イントロの学校のベルのようなサウンドからテンションが高くなる。何時聞いても、聞き飽きない。
テンションの高い演奏が続く。ブルースと、スウィング感と、熱気が綯い交ぜになっている。聞くことを本当にオススメします。
他の4部作もそのうち書いておきます。
チェット・ベイカー「Chet Baker Sings」
私の持つ何枚かのジャズ・アルバムは「精神安定剤」みたいな役割を持つものがある。落ち込んだ時や、追い詰められている状況に流すと、落ち着いてきて、何だかホットする。クヨクヨと悩んでいたことが馬鹿らしくなる。
チェット・ベイカーの「Chet Baker Sings」は、そうした安定感の一つである。私にとっては、極めて強い効果をもたらす。
チェット・ベイカーは、西海岸で名を馳せたトランペッターであり、ヴォーカリストであった。端正な顔立ちや、彼の中性的なヴォイスは、当時の女性にかなり人気であったそうだ。
そう、このアルバムは、タイトルに示すとおり、チェットの中性的なヴォーカルを余すことなく堪能出来るアルバムである。ちなみに、昔のジャズシーンでは、「オカマみたいな声」と酷評されたそうだ。確かに、あまり抑揚を付けず、音程に沿って淡々と歌っているので、他のジャズ・ヴォーカルに見られるような迫力はあまり無いかもしれないが、大きな個性であることは確かだ。
Chet Baker - But Not For Me - YouTube
チェット・ベイカーについては、村上春樹氏の「ポート・イン・ジャズ」でも取り上げられている。その中で、氏は「チェット・ベイカーの音楽には、紛れもない青春の匂いがする」と評価しているが、それは私にとって非常に納得のいく表現であった。
「青春」・・・そう聞くと、甘酸っぱい恋だったり、友達と騒いだり、そういった明るいイメージを持つ人が多いと思うが、それは「青春」の持つひとつの側面に過ぎない。私は、むしろ失敗だったり、挫折だったり、そういった苦い思い出が次々と出てくる。考えてみると、多感な思春期に、恋や友情といった、さささやかな甘い経験はほんのわずかであり、逆に劣等感や、無能感、孤独感といった事が多い。自我が急速に発達する中で、相対的に自己の技量、経験といったものが不足する。そして、それ故に恋や友情を強く希求するのだ。
このアルバムは、そういった挫折や失敗といった苦い思い出を匂わせてくる。チェット・ベイカーの歌声はどこか淡白な気がするが、何故だろうか。分からないけど、このアルバムを聞く。聞いていて、私のよく知っている匂いを嗅いで、ほっとする。