ジャッキー・マクリーン「4,5 and 6」
地獄の職場から命からがら逃げ延びた先に待ち受けるのは、また地獄だった。
そんな時、頭の中に鳴り響くのは、マクリーンの「Sentimental Journey」。傷心旅行。第二次世界大戦中の兵隊達にヒットしたこの曲は、かかる望郷、故郷に帰る歌であった。Oh,今の気分にピッタリじゃないデスカ!HAHAHA!
Jackie McLean - Sentimental Journey - YouTube
ジャッキー・マクリーンのアルトが歌っている。コブシの強いアルト。他のアルトプレイヤーでは出せない味である。10分ほどの名演。
「Sentimental Journey」が入っているこのアルバムは、タイトルである「4,5 and 6」に示すとおり、カルテット編成、クインテット編成、セクステット編成で行われた3セッションがワンパッケージに入ったものである。正直、どのセッションも正道のハード・バップ、けだし快演である。特にドナルド・バード、ハンク・モブレーが加わったセクステットの「Confirmation」は、本家バードの演奏を差し置いてベストテイクではないかと、個人的には思っている。
Youtubeで動画探したけど見当たらなかった。アルバム、買おう!(提案)
エラ・フィッツジェラルド、ルイ・アームストロング「Ella and Louis」
疲れた時には、よくヴォーカルの入ったアルバムを聞く。ジャズ・ヴォーカルの基本は、曲のメロディに沿ってジャジーに歌うというものであり、超絶なアドリブや特異な曲調に陥ることが少ない。従って落ち着いた雰囲気になることが多く、聞いていて疲れないのである。
このアルバムは、「ジャズのファーストレディ」ことエラ・フィッツジェラルドと、「ジャズの王様」ルイ・アームストロングがタッグを組んだアルバムである。バックはオスカー・ピーターソントリオ。かなり豪華な顔ぶれ。しかし、双頭のヴォーカルデュエットが非常に心地よい。お互いを長年知っているような感覚で、歌のやり取りがなされる。
ジャケットも熟年夫婦のようで和む。
Can't We Be Friends? - Ella Fitzgerald & Louis Armstrong - YouTube
1曲目の「Can't We Be Friends」。和気藹々としたムード。
余談だが、間奏のトランペットが、家の新調したスピーカーから流れる度、高音が張って驚く。
2曲目以降も、ジャズ・スタンダードが並び、お二人の見事な歌唱が味わえる。
Ella Fitzgerald & Louis Armstrong - The Nearness Of You - YouTube
11曲目の「The Nearness Of You」は、しっとりとしたバラードナンバー。このアルバムの白眉。
ジャズに興味を持っている人はまずこういったアルバムから入ってみるのもいいかもしれない。
バド・パウエル「The Amazing Bud Powell vol.1」
Bud Powell - Un Poco Loco [Alternate Take No. 1] - YouTube
帯の紹介文から。
「〈ウン・ポコ・ローコ〉の3ヴァージョンから始まる悲運の天才ピアニストの炎のセッションを記録した不滅のアルバム」
この文は、アルバムを本当に、過不足なく表現していると思う。他のアルバムだと、紹介文と聞いた内容でミスマッチすることがある。でもこれは、上記の表現が正しい。
本当に、いきなりウン・ポコ・ローコという曲が3テイク続くのだが、聞いていて飽きさせない。というか、むしろのめり込んでいってしまう。正に炎のセッション。
バド・パウエルは、言わずもがなモダン・ジャズの開祖の1人であり、ピアノトリオを確立した天才ピアニストである。バド・パウエルの特徴といえば、迫力のある早弾きと、バラードにおけるリリカルなタッチのピアノ。そのスタイルは、更新のプレイヤーに大きな影響を与え、ソニー・クラークやハンプトン・ホーズ等のパウエル派と呼ばれるピアニストが続出した。私は最近まで、パウエルのピアノはいささか苦手であった。あまりに熱がこもっていて、うまく聞き取れない。
ただ、初めて聞いた時から半年後に改めて聞いてみると、おおっ!となる箇所が多く、一気にパウエルに惹き込まれた。多分、耳がジャズにカスタマイズされてきたからだと思う。
本アルバムは、ブルーノートに残されたパウエルの音源を纏めたものであり、冒頭のウン・ポコ・ローコ3連弾以外にも、天才トランペッターのファッツ・ナバロとの共演があり聞きどころが多い。ピアノトリオが好きな人は是非一度聞いてみて欲しい。
ハンプトン・ホーズ「vol.3 the trio」
とにかくジャケットが良い。
ハードロックほかのジャンルだと、多分地雷に見えるイラストだが、ジャズのアルバムであるなら面白く見える。
ジャケットの話は置いておくとして、演奏内容は非常にスウィンギーだが、それ一本調子とならず、メリハリが付いている。俺好みのもの。
ハンプトン・ホーズのピアノトリオとして、大きなポイントのひとつが間のとり方が上手いということである。各々のソロタイムが長すぎず丁度いい。多分ウマがあっていたのだろう。ホーズだけに。
Hampton Hawes Trio - Somebody Loves Me - YouTube
一曲目の「Somebody loves me」。ノリノリになる。アップテンポの曲も良いが、バラードやスローテンポの曲も非常に聞きやすく、まさに走攻守揃った3ツールプレイヤーだろう。(ピアノトリオだけに)
リー・モーガン「Candy」
伊達男のリー・モーガンの唯一のワンホーンカルテットアルバム。トランペットのワンホーンアルバムは、サックスと比べると絶対数は少ないけど、良作は多い気がする。
リー・モーガンというと、非常にノリの良い演奏でハード・バップシーンをリードしたイメージが強いが、今作はスタンダード曲が多く、非常にリラックスした演奏で聞きやすい。リー・モーガン初心者にもおすすめかもしれない。
個人的には、4曲目の「All The Way」が白眉であると思う。強弱を上手くつけて、しっとりとしたメロディを放つ。20歳のトランペッターが、ここまで聞かせるバラードを吹けるものなのだろうか。ピアノのソニー・クラークのサポートも光る名曲である。
All The Way / Lee Morgan - YouTube
これは余談になるが、私は20歳の時、毎日ダラダラと日々をただ過ごしていた…リーとどこで差がついたのか。慢心・環境の違い。失った時間は戻ってこない。日々努力するしかないです。
2曲目の「Since I Fell For You」は、R&B曲として有名だが、情感のあるプレイを見せている。3曲目の「C.T.A」はBLP1501のマイルスと聞き比べるのが楽しい。
全体として、聞いていて凄く心が穏やかになるアルバムです。こういったアルバムを常に手元に置いていたい。
ナット・キング・コール「After Midnight」
ある日、私は営業であきる野市に来ていた。奥多摩と多摩地方の中間にあるあきる野市は、中央線を経て拝島から五日市線に乗ることで行ける。
商談といっても、初めて会うお客さんで、大昔にうちの製品を使っていただいたっきり。個人宅で設計をやられており、電話で数回話した程度の関係だった。
駅から遠いのでタクシーを使う。タクシーの運転主さんに行き先をたどたどしく告げる。目的地に着いたら、目の前には山々の風景や田んぼが広がり、ここが本当に俺の知っている東京なのかとさえ感じた。
実際にお会いすると、凄く感じのいい方で、うちの製品を恙無く案内して商談は終わる。ふと、テレビ台の下にレコードが置かれているのを見つけた。
「レコードですか?」
「はい」
「凄いですね、初めて見ました」
「良かったら、聞いてみます?」
「お願いします!」
そこで流していただいたアルバムはウイングスのものだった。ご主人、ビートルズとかが好きなのかなと思い、他にレコードをちらっと見てみると、ビートルズのレコード、あと見慣れたジャズのレコードが。
「ジャズも聞かれるんですか?」
「そうですね」
「私もジャズ聞くんですよ!マイルスとかジミースミスとか(適当)」
「あーそうなんですか!」
そうして、ジャズの話で場が盛り上がった。そこで掛けていただいたレコードが、ナット・キング・コールの「After Midnight」である。
一曲目の「Just You Just Me」は、ご主人とお話ししながら聞いていたが、正直そこまでの感慨はなかった。しかし、二曲目の「Sweet Lorraine」に入ると、物悲しげな曲調に惹かれていた。いつしか、ご主人と奥さん、私の3人で聞き入っていた。微笑ましい、貴重な光景であったと今でも思う。
帰りは奥さんが車で送ってくださるとのことで、お言葉に甘えてしまった。お使いになられている車も、以前日産で生産されていた車を中古で購入したそうである。奥さんもご主人も、趣味がかなり合っている様だった。
家に戻ったら、「After Midnight」がまた聞きたくなった。週末に中古CD屋を駆けずり回り、CDを入手。ラジカセで早速聞いてみたが、あの時聞いたレコードと比べ、CDの音が大げさに聞こえて来る。音自体はよりハッキリしてはいるが、雰囲気が出ていないのだ。
ちょうどオーディオセットを買い換える前の話であり、ちゃんとしたオーディオで聞いてみると、なるほど音がレコードに近くなっているように感じる。ただ、まだあの時聞いた音は再現出来ていない。近日中にレコードプレイヤーとレコードを揃えようと思う。
終わり
ジミー・スミス 「Jimmy Smith at the organ plays pretty just for you」
ジミースミスは、ジャズオルガン奏者である。ジャズオルガンの第一人者、ジャズオルガンの唯一神とも呼ばれており、後世への影響力は非常に大きい。
私なんかは特に、ブルーノート初期のアルバムのアグレッシブなサウンドが好きであり、デビュー作のThe way you look tonightを聞く度に1人痺れている。このアルバムはそういった流れの中で、1面バラードで覆われたコンセプトアルバムであり、曲目も「The nearness of you」や「Old devil moon」などスタンダード楽曲が並ぶ。正直、これがもう堪らんですよね。
ジミーのオルガンは、前作までの攻撃性を潜めて優しい響きを放ち、バラードを解釈する。バラードが続くとなると、音も単調になりがちだが、うまくオルガンタッチに強弱をつけて飽きさせない。いいなーこういうのーって思いました。終わり。