ゾンビのジャズアルバム備忘録

ジャズアルバムの備忘録

ナット・キング・コール「After Midnight」

ある日、私は営業であきる野市に来ていた。奥多摩と多摩地方の中間にあるあきる野市は、中央線を経て拝島から五日市線に乗ることで行ける。

商談といっても、初めて会うお客さんで、大昔にうちの製品を使っていただいたっきり。個人宅で設計をやられており、電話で数回話した程度の関係だった。

駅から遠いのでタクシーを使う。タクシーの運転主さんに行き先をたどたどしく告げる。目的地に着いたら、目の前には山々の風景や田んぼが広がり、ここが本当に俺の知っている東京なのかとさえ感じた。

実際にお会いすると、凄く感じのいい方で、うちの製品を恙無く案内して商談は終わる。ふと、テレビ台の下にレコードが置かれているのを見つけた。

「レコードですか?」

「はい」

「凄いですね、初めて見ました」

「良かったら、聞いてみます?」

「お願いします!」

そこで流していただいたアルバムはウイングスのものだった。ご主人、ビートルズとかが好きなのかなと思い、他にレコードをちらっと見てみると、ビートルズのレコード、あと見慣れたジャズのレコードが。

「ジャズも聞かれるんですか?」

「そうですね」

「私もジャズ聞くんですよ!マイルスとかジミースミスとか(適当)」

「あーそうなんですか!」

そうして、ジャズの話で場が盛り上がった。そこで掛けていただいたレコードが、ナット・キング・コールの「After Midnight」である。

一曲目の「Just You Just Me」は、ご主人とお話ししながら聞いていたが、正直そこまでの感慨はなかった。しかし、二曲目の「Sweet Lorraine」に入ると、物悲しげな曲調に惹かれていた。いつしか、ご主人と奥さん、私の3人で聞き入っていた。微笑ましい、貴重な光景であったと今でも思う。

帰りは奥さんが車で送ってくださるとのことで、お言葉に甘えてしまった。お使いになられている車も、以前日産で生産されていた車を中古で購入したそうである。奥さんもご主人も、趣味がかなり合っている様だった。

 

家に戻ったら、「After Midnight」がまた聞きたくなった。週末に中古CD屋を駆けずり回り、CDを入手。ラジカセで早速聞いてみたが、あの時聞いたレコードと比べ、CDの音が大げさに聞こえて来る。音自体はよりハッキリしてはいるが、雰囲気が出ていないのだ。

ちょうどオーディオセットを買い換える前の話であり、ちゃんとしたオーディオで聞いてみると、なるほど音がレコードに近くなっているように感じる。ただ、まだあの時聞いた音は再現出来ていない。近日中にレコードプレイヤーとレコードを揃えようと思う。

 

終わり